ちゃんとできない!
お薬ですよコールに出た母は、今日も元気がない。
今日は1時間遅い出勤なので、ちょっと余裕があった。
ひとまず薬を飲んでもらった後に「どうしたの?元気ないね?」と聞いた。
母は風邪をひいたらしく、「まだパジャマのなの」と言っていた。
ってことは、朝食はまだ取っていないってこと?
あらららら、薬は食後…ま、仕方がない。
こんな声を出している時に、言ってもおお泣きになってしまうし、
食後薬を飲んでしまった後だから、仕方がない。
気になったので、午後1時過ぎに再び母へ電話。
携帯にも出ないし、一般電話にも出ない。
おいおい風邪をひいていたんじゃないの?
それとも良くなって外にでも出ているのか?
まぁ、仕方がない。
御無沙汰しているのでお隣の塩田さんに御挨拶かたがた電話をした。
おばさんも体調がいまいちらしい。ちょっと心配。
そして、おばさんなりに気にかかることを2-3教えてくれた。
態勢に大きく影響がないものの、母はHight と Low を過ごしているようだ。
やはり薬の処方について、担当医にもう一度相談してみよう。
アルツ薬が利いているようで、利いていない感じもする…。
アルツじゃなくパラフレニー? ん~どちらにしても困った。
で、塩田さんのおばさんと話し終えて、もう一度母に電話を入れる。
「あ、お母さん、元気になったのかな?」
「うん、大丈夫」
「そう、安心したわ。さっき電話をしたら出ないから、きっと元気になって
お買いものでもいったのかなと思っていたの」
「え?ずーっと和室にいたわよ。電話なんてならないわよ」
「そう、携帯の画面を見て。着信ありってなっているでしょう?」
「ちょっと待って…本当だ。おかしいわね。ずっといたのに。
ならなかったわよ。携帯はテーブルの上だし、隣の部屋にいて電話の音が
聞こえないほど耳が遠くないもの」
「そうだね、きっと夢中になって何かをやっていたのかしらね」
「押入れの片付けをしていたの」
「そう、片付けかぁ。私のところにも着てやってよ(笑)」
「へんなことばかり起きるの。郵便局で聞いてみないとなぁとか、
どうしてこんな服があるのかなぁとか…もう…」
「そう、片付けを一生懸命にしていたんだね。お母さん、夢中になって
ご飯も食べていないんじゃないの?」
「そうなの、まだ食べていないの」
「あらぁ、もう2時よ。食べなきゃね。そんなに夢中になっていたのなら
電話の音も聞こえないのかも」
「そうねぇ。なんだか不思議なことが多くて…」
「お母さん、調子が悪いのかな?そう、だって、この前薬がなくて
飲めなかったものね。調子が戻るまでもうちょっとかかるけど大丈夫だから」
「薬を飲まないと調子が悪くなるの?」
「そうよ、食後薬でしょう?だからまずは食事をとって30分たってから飲む、
これが一番薬がきいて、調子がよくなるの。」
「今日、食べていない」
「え~よくお腹がすかないねぇ。餓死するよぉ(笑)」
「サクチャンじゃないんだから(笑)」
「そうね、ふふふ。お母さん、スポーツ選手もね、練習を1日休むと
その分取り返すのに3日かかるっていうでしょう?」
「そうなの?」
「そうよ、どんなことでも1回休むと、その分取り返すためには3倍かかるってよ」
「ちゃんとやっているもの」
「そうだね、ちゃんとやっているね。でもね、無理しすぎてもだめだし、
食事や薬もちゃんと取らないと体や脳に影響がでるんだから。お母さん、いくつ?」
「81歳」
「そうだよね、スポーツ選手はみんな若いのよ。
それでも1回休むと3倍かかるんだから
お母さんは1回薬を休んで、しかも81歳だから、
もとの体調の戻るまで時間がかかるわよ。」
「でも、急になのよ。81歳になるとこんなになっちゃうの?」
「ん~私は81歳になったことがないから、81歳がどの程度か分からないけど、
私は『あ~前はもっと頑張れたのに…』って密かに泣けちゃう時があるわよ」
「サクチャンでも?」
「そうよぉ。もう5年前と全然違うわよ。白髪もすごいし、体力もひどく低下よ」
「そうなんだぁ…」
「お母さん、ここんところ『ちゃんと』って言葉を連発しているわよ」
「え?たとえば?」
「そうだなぁ、たとえばね『お母さん、大丈夫?』って聞くと
『ちゃんとやっている』って答えるのよ。別にちゃんとしているかどうか
じゃなくて、心配しているから大丈夫かって聞くんだけど、お母さんは
ちゃんとしているって答えるのよ」
「そうかぁ…相手が心配して『大丈夫』って聞いているのにねぇ…」
「そう、お母さんね、逆に自分で気にしすぎていて『大丈夫?』って聞かれると
傷口に塩を塗られている気分になってしまうんじゃないの?」
「そうかもしれない」
「そうよね、自分で『ちゃんとしなきゃ!』『こんなんじゃだめ!』って
激励しすぎっていうか、自分を追いつめているんじゃないの?」
「そうだわ。確かに言えている」
「81歳なんだからちゃんとできなくて仕方がないし、できるほうが
気持ちが悪いかもね。できないのもご愛敬よ」
「そうよね。だめなのよ、ちゃんとできなくって悲しくなるの」
「別にちゃんとしなくても生きていけるから」
「ちゃんとできなくて死にたくなるの」
「おかあさん、じゃぁ私はとっくに死ななきゃだめだわね」
「そんなぁ、サクチャンが死んだら困る。悲しいもの」
「そうよね、娘がちゃんとできないことで死んだら悲しいよね」
「そうよ、ちゃんとできなくても生きていてほしいもの」
「お母さん、私だって同じよ。ちゃんとできなくてもお母さんには
お父さんの分まで長生きしてほしいの」
「サクチャン、ごめんね。スボラだよね」
「そ、標語はスボラ!」
「わかった。薬が回ったら元気になるのね」
「そうよ、薬はスボラなほうが利くの!」
「それは嘘でしょう?」「はい、嘘でした。ははははは」
「サクチャンったら(笑)」
こうして母はひとまず明るい声になった。
8月5日
サクラ