私がボケたのね
22時半、母から電話が着た。声はいい感じ。
そして母は「ねえ、サクチャン、今日、来た?」と訊いた。
でたぞ!何かあったようだ。
「え?どこに?お母さんの家?」
「そう、来ていない?」
「行っていないわよ」
「じゃあ、誰にお遣いを頼んだ?」
「お遣い?」
「そう、あのね、今日ね、トマトの苗を買いに行って、
帰って来たら、テーブルに健康保険証とかあって、
食堂テーブルには薬の箱が出ているの」
「なるほど、私が誰かに保険証とかをお母さんの家まで
届けてもらって、そして、薬をテーブルに出しておいて
もらったということね」
「そうなの」
「そうねぇ、保険証は、この前、病院にいった時、
薬局で出して、その後、お母さんがバックに入れたよね」
「そう、入れた」
「じゃあ、私が持っていないのだから、届けてもらうのも
おかしな話じゃないのかなぁ」
「でもね、テーブルに置いてあったの」
「テーブルに置いてあると、誰かが届けた事になるの?」
「ん~そうか、自分で持っていたものなのに、サクチャンが
持っていることにならないわよね・・・」
「私もそう思うんだけど・・・」
「変だわぁ・・・私、ボケちゃったのかしら?」
「ボケっているより、出掛けに慌てて忘れちゃった、
うっかりってことじゃないの?何でもボケに結び付けなくても
いいように思うんだけど」
「そうよね」
「で、保険証のほかに何があったの?」
「そう言われると何があったかしら・・・」
「ふふふ、体制に影響ないことだからお母さんも
忘れちゃったんじゃないの?なんでも事細かに覚えていないわよ。
私もこの前、携帯電話がない!って大騒ぎしたら、ポケットにあったの。
でもね、自分でしか入れないでしょう。家にはひとりしかいないんだから。
どう思う?誰かが入れたと思う?」
「まさか!サクチャンのうっかりじゃないの。ふふふ」
「そうでしょう、それがふつーだよね」
「そうかぁ・・・可笑しいわね、まぁ、いいや」
「そうそう、『まぁいいや』の精神でファイトだね」
「そうね、80を過ぎているんだし、なんでも覚えていたら
逆に気持ち悪いわよね。」
「ふふふ。それにもうすぐ誕生日で、81歳だわ。スゴイわね」
「そーなの。で、3本もトマトを植えたの」
「へ~すごい!3本も植えたの。楽しみぃ♪」
「楽しみにしていてね、育てるから!」
「うん、たくさん収穫してね」「OK!」
いや~OKと着たものだ!しかも自分で頭の中を整理して、
自分の受け止め方がヘンだと認識し、その上、まぁいいか、と。
母はその後、お向かいの奥様のお見舞いの話、
そして、お隣の塩田さんとの立ち話をした内容などを話していた。
私が「お母さん、お腹がすいたの」と言うと
「あ、ごめん、ごめん、帰ってきたばかりと言っていたのに
ごめんね、つい話してしまって」
「お腹はすいたけど、お母さんの元気な声をきけて嬉しいわ」
「そう♪私は元気よぉ。本当に元気になったのよ」
「よかった、よかった。私も仕事に張りがでるわ。パソコンを
買ったのね。だから働かないとぉぉぉ~」
「あら、やっぱりダメになったの?高いんでしょう?」
「いま使っているものより安いわよ。でも千円じゃ買えないわ」
「私、協力できるかしら?」
「協力って?お金ってこと?もし、そうなら要らないわよ」
「だって・・・」
「それより、またおにぎりを作って。美味しかったわ」
「病院へ行く日までまだ間があるわよ」
「楽しみに待っているわ。ほら4月の頭に脳血流の写真を取りに
言った時も持って来てくれたでしょう。あの時ね、心配だったの」
「え?どういう意味?」
「ゴマを使って、工夫していたけど、握り方が硬くて岩だったのね。
握り加減っていうの大事でしょう。」
「握るっていうのも脳の働きだものね、そうだったの・・・でも、
この前の握り方がよくなっているということは、脳の働きも
よくなっている証拠ね。色んな部分で脳の働きってわかるわね」
「そうだね。お母さん、本当にすごいね、物事を結びつけながら
整理して考えられるなんて、嬉しいわ」
「そう、ありがとう。わたしこそ、嬉しいわよ。ホントネ、
頭がどうかなりそうだったんだから」
「そうよね、辛かったよね。さ、お母さん、いつまで話していても
キリが無いから、電話を切って食事とるわ」
「あら、そうね、ごめんって言いながら(笑)。ちゃんと食べるのよ」
「うん、わかった。ありがとね、おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
こうして母との電話が終わった。
投薬量1.5mgだった時、やはり妄想へのアプローチをするために
投薬を受けるほうがよかったかな、とちょっと考えたが、経過を見てから、
と考え直して正解だったと思う。
脳の働きが安定すると、母はひとまず考え、吟味するようになった。
母は私に改めて箸袋を折っているようだ。
そして、明日、区の福祉の方がいらっしゃった際、見せると言っていた。
担当医が快く受け取ってくれたことがかなり効をなしていると思う。
ありがたい。全てに感謝して、さ、明日に備えて、安眠。
5月21日
サクラ