2粒の飴


姉のところへ行く日、夕方から「何時になるの?」
「ご飯はどうするの?」と姉から何度もメールが入る。

なんだかんだ言っても、姉は面倒見がいいし、
それなりに妹の私に何かしてあげようとしている。

そ、この「してあげる」ってことでエスカレートが恐ろしい。
でも、そこは考えないように、余計な想像をしない。
起こった時主義ということで。

終電で姉のところへ。
賑やかにポチとボンヤリモードの姉が出迎えてくれた。

とりあえず地元で買ってきたお土産と、
仕事で出向いた先で買ったサクラ餅とうぐいす餅の包みを出す。
別に姉がサクラ餅やうぐいす餅がすきなわけではないけれど、
なんとなく姉と一緒に食べたいくて買った。

遅かったので、姉は小言をいうわけでもなく「置いておいて。
寝るから。おやすみ」と言って部屋に入って行った。
ヤレヤレ、ホッ。

PCでメールのチェックをしていると兄ツヨくんがドアをノックし、
顔を見せてくれた。ありがと。嬉しかった。


翌朝、起きた時には、既に姉は桜餅を2つ食べていた。
なんだかおかしい。以前であれば「食べない?」と誘っても
眉間に皺をよせて、手のひらを振り、「私、そういうのを
食べないから」と言っていた。
姉は異常なほど容姿に神経をはらい、と言っても運動を
するわけでもなく、私からすると下剤を乱用していると
しか思えなかった。

そんな様子を知っているので、正直なところ、桜餅などを
買う時に「食べないかも・・・」と思っていたが、予想外。
表面に出すとそこから姉は不機嫌になるので、心の中で
ニヤニヤしていた。

そして、私は姉に
「心配かけると思って言わなかったんだけど、
実はね…」と母の怪我から切り出した。
別に慌てる様子もなく、ちょっとボンヤリ。
体調が悪いのかしら…と心配になる。

そして、アルツ薬を飲んでいても不安感が強まったり、
鬱積したマイナス感情が強くなると妄想を起こすし、
また、不思議な行動を起こすことなどを伝えた。

労うわけでもなく、それよりも興味のない様子をみせて
「あの人、昔からだもんねぇ」
「〇〇さんも言っていたけど、後になって『あの時…』って
思うことが多いみたいねぇ」などと言っていた。

ま、どうであっても、姉のあのクレージーな言動を受けず、
ひとまず第一弾として母の状態を伝えられて安堵。

そしていきなり「ちょっと寒いって言っていて靴下を
はいていないの?!」と言うと私をクローゼットの手招きし、
「これあげる」が始まった。

ここでその靴下の由来(?)を聞くはめにはる。
姉からものをもらうときの儀式で、かといって「いらない」と
言うとここから姉の不機嫌さが始まるので、適当に相槌。

その他、「好きでしょう?」と梅干、佃煮などいろいろ出してくる。
「もらいものばかりだけど…」とちょっと笑顔を見せる。
嬉しかった。姉が笑っている。ここ5-6年、姉の笑い顔を
見たことがない。いつ行っても眉間に皺をよせて、不満を言っていた。

そしてブルーの袋を手に持つと
「これ、買ったの。サクちゃん、好きそうな柄でしょう」と
化粧ポーチにもなりそうなチャック付きのケースを差し出した。

甥のところで食事や洗たくなどしたり、母のこと、
姉としてはこのポーチに思いを託したのだろうと思う。

私は、姉の気持が嬉しかった。
私を思って、このブランドショップで、色、柄、形などの
品定めをして、1点選んでくれたのだろう。


来てよかった…。姉と会ってよかった。


辛かったこの数年間の思い。
母の妄想のターゲットとなり、姉から批難を受け、
それでも希望を捨てず、前を向いて歩いてきた。
ただただ「私は一人っ子」と自分に言い聞かせて。


仕事アポの時間ギリギリとなって私は
姉に「また泊めてね」と言って玄関で靴をはいた。

姉が「気をつけてね」と無表情に言う。
私は「ありがとう。お姉ちゃん、会いたかったの。
すごく辛かったの。さびしかった」と本心を伝えた。

姉はその言葉に返答をすることなく、
しかし、「ほら、飴あげるから」と靴箱の上に
無造作にあった飴を私に手渡した。

「ありがとう、じゃあね」と扉を開けた。
バス停で姉のいる部屋の窓をみながら、
いろんなことを思い出す。

なぜ自分のことしか考えられない。
なぜ状況を冷静にみられない。

そうしかできなかった姉。
それを受けて私は悲しかった。
とにかく悲しかった。


もらった2個の飴を1つ口に入れた。


3月5日
サクラ