母のペース
朝食の支度をしていると電話が3回なって切れた。
その後、朝食を食べていると今度は携帯に電話が入り、また切れた。
着信履歴を見るといずれも母からの電話。
事件勃発?!
そして、母に電話をかけると
「さっきから電話をかけているでしょう?」と言う。
かけていない旨を伝えると「だってね…」と説明が始まった。
ひとしきり聞いている「サクチャン、いつもモーニングコールを
してくれるので、それかな、と思っていたの」と。
「モーニングコール?」
「そう、毎朝、起してくれるでしょう?」
「そうだね、毎朝、私は電話をかけているね。で、その電話の
用件は『起きて~』ってことだった?」
「そうでしょう、違った?」
「サクチャンは毎朝、何時にお母さんに電話をかけていますか?」
「何時って…7時…」
「…」
「サクチャンは毎朝7時に『起きて~』とお母さんへ電話をしている、
ということですか?」
「違うわ…自分で起きているもの」
「そうだよね、ちゃんと自分で起きているよね」
「そうよ、ちゃんと自分で起きている」
「じゃあ、サクチャンは何のために電話をかけていますか?」
「え~っと…」
「そう、朝の薬を飲んでくださいって『薬だよ~』って電話口で
叫んでいるよね」
「あ、そうそう」
「では、その『薬だよ~』と電話がくるのは何時ですか?」
「8時半…」
「大正解ぁ~い!ピンポンピンポンピンポン」
「そうよね…じゃあ、誰が電話をかけてくるの?」
「ん~電話なの?そうよ、携帯電話がなるの。この電話、おかしく
なってしまったのだろうか?」
「大丈夫よ、誤作動と思うな」
「え?ごさどう?ごさとうって?」
「何かのはずみで適切ではない働きをするの」
「私と一緒ね…私、おかしくなっているの?」
「お母さん、電話の話だってばぁ~」
「あ、そうか」
先月末ぐらいから母はしきりに「私、おかしいい?」と聞く。
以前は、私や担当医に「違いますよ」と言ってほしくて聞く
パターンだったが、最近の口調は明らかに違っていて、
本気で心配していて、悲壮感が漂うもんである。
あ、携帯電話の話だった。
そう、そういえば、先日、母のところに行った際、
ボタンを押すと携帯電話の画面に表示されるあたりまえのことを
書き取って“おかしい!サクラ080-△×○◇-****、カエデ…、
グリープ1、グループ2????????”というA4のメモがあった。
私はおそらく母が携帯電話をあれこれ触り、やっているうちに
自分が何をやっているのか、そして、その画面が押すたびに変化し、
何が何だかわからなくなってメモを書いたと想定した。
そのままそのメモを置いておくと、今度はそのメモが何であったか
考えだし、次の不具合を起こすことが考えられるので、そっと持ち帰った。
母のところには、過ごし方の様子をうかがい知れるこうしたメモが
あちこちにあり、私は見つけるたびにそっと持ち帰えり、
そのメモから起こりそうな出来事を想定し、心のスタンバイをしている。
母と一般電話で話しているうちに携帯電話がなった。
どうやらアラームを設定してしまったようだ。
ヤレヤレ…次回、行った時に母がしてしまった
不必要な設定を解除してこよう。
「お母さん、いま、私は私の携帯電話からお母さんの携帯電話に
電話をかけます。このまま一緒に音を確かめようね」
「うん、わかった」
ルルルルルルル
「あ、電話!」
「もう、切ったよ。いま、なったよね?」
「うん、なっていた」
「そう、私が今ね、テストでかけてみたの。ほら、もう安心だね。
今度、行った時、私がお母さんの携帯電話を確認するから、
ちょっと我慢していてね。大丈夫?」
「わかった。よろしくね。色々手間かけてごめんね。
ホント、私、おかしいのだろうか…」
「おかしい感じがするの?」
「なんだかもういやだ…」
「そう、なんだか嫌になっちゃうんだね、悲しいね」
「ごめんね、サクチャン。あ、今日、ヘルパーさんが来て、
買いものに行こうと思うけど、この携帯電話を持って
行ったほうがいい?」
「さっき一緒にテストをした時、お母さんの携帯電話につながったし、
ひとまず連絡がつくようだから、忘れないでもっていってね。
私も安心だし、お母さんと私のお守りだからね。それよりさぁ…」
「なに?」
「あのね、お母さん、自分でおかしいとか言っているよね?」
「うん…」
「あのね、おかしくなっているのなら、今日、ヘルパーさんが
来る日だってわからないから(笑)」
「あ、そうだね」
「そうよ、ちゃんとわかっているのに、お母さん、神経質過ぎるって。
あれこれ考えて、考えて、だんだんわからなくなって、ドキドキして」
「あ~言えているわ、そうなの」
「でしょう?で、もう一言、言っていい?」
「いいよ、何?」
「おかしいって言っているお母さんがおかしいわ」
「ははははは、そうだね、まったくサクチャンのいうとおりだわ」
「で、お母さん、調子にのってもう一言、言っていい?」
「いいよ、特別に許す!」
「ありがとう、ではお許しの出たところで、もう一言。
お母さんね、そういう風におかしいとか、あれだとか考えているって
暇なの!もう~ご飯を食べないとぉ。いまから食べたら、
薬を飲むのが9時だよ。」
「今すぐ飲むわ」
「だからぁ、ご飯を食べないで飲んだら効かないのよ」
「そっか…」
「私ね、9時過ぎに電話をかけるから。だから、まずご飯を食べて。
そして、私の『お薬ですよ~』と電話が行くまでまっていてよ」
「うん、わかった」
「じゃあね」
…私は途中になった朝ごはんをそのまま片付けた。
母と話す時、日ごろ、はしょっている主語や所有格を丁寧につける。
そして、文節、文節を的確にまとめ、ゆっくりと話す。
時間がかかるというデメリットもあるけれど、おそらく私にとっては
脳トレ、話し方のトレーニングになっているだろう。
とにかくいまはそれどころじゃない。
明日、金曜日までにしなければいけないことが山とある。
12/27
サクラ